【ライチ大好き!】北タイの特産フルーツー「リンチー(ライチ)」は、5月6月が旬!

タイの雨季のフルーツと言えば、ライチだ。英語でlychee(ライチ)、漢字だと茘枝(レイシ)、タイ語では「リンチー」という。

リンチーは、暑季から雨季にかけてのこの時期を代表するフルーツであるが、流通する期間がほんの2~3週間と短く、「そろそろ出回り始めたかな」と思った頃にはなくなってしまう、まさにマボロシのフルーツだ。

リンチーは寒さを好むため、栽培はもっぱら北タイがメインで、チェンラーイ県、パヤオ県、チェンマイ県のファーン郡など、北タイの中でも更に北寄りの地域で栽培されている。

リンチーは、かの楊貴妃がこよなく愛したと言われており、白い果実の独特の甘味と酸味、なめらかが舌触りが特徴的だ。今回は、そんなリンチーの収穫の様子などを探ってみよう!

(今回の記事は、2014年発行『ちゃ~お』293号に掲載された巻頭記事を、転載したものです。)

リンチーの品種名は?

 日本では、英語の「lychee」のカタカナ読みの「ライチ」、または漢字の「茘枝」の音読み「レイシ」、両方の呼び名が使われているが、ここでは、タイ語でそのまま「リンチー」と呼ぶことにする。
 
現在タイの市場では、4つの品種が主に流通している。左上から順に、「ゴワンジャオ種」、「オウヒヤ種」、「ジャカパット種」、そして「ホンホエイ種」だ。

最も多いのは「ホンホエイ種」で、生産量全体の8割以上を占めている。そのため、市場のリンチーで特に品種名の記載がない場合は、だいたいこのホンホエイ種だと思って差し支えない。実は丸く、皮はピンク色で、味、果汁、果肉量、いずれも最もスタンダードな品質だ。1kg35~50B程度。

 次に、ホンホエイ種によく似た「ゴワンジャオ種」。我々素人には違いはほとんど分からない。ゴワンジャオ種は、ホンホエイ種同様、実が丸く、ホンホエイ種よりも果汁と果肉が多い。値段もホンホエイ種より高く、1kg50~70B程度。

次は「オウヒア種」。1kg70B以上もする高級品種だ。実の上が太く下がすぼんでいるため、ハート型のように見える。果汁は濃厚で甘く、可食部となる実が多い。また、このオウヒヤと同じくらいのグレードで、「ギムジェン種」というのもある。

4つめは最高級品種の「ジャカパット種」。ジャカパットとは、タイ語で「皇帝」を意味するが、現在のタイでは通常、日本の天皇を指す。最高級の品種名が「天皇」だというのは、我々日本人にはうれしいことだ。実は黒っぽい紫色で、うろこが大きく、色・形状・手触りともに他の品種とはかなり違っている。実の大きさも3~4cmと、リンチーの中で最大級である。味も、甘味の他にほのかな酸味があり、高級感がある。これがなんと、1kg90B。スタンダードのホンホエイ種に比べると、値段は3倍だ。

これらの品種名は、ジャカパット以外はどこか中国語っぽい響きがある。最もポピュラーな品種である「ホンホエイ」などは、いかにも中国語だ。

ホンホエイの語源は何だろうと思い、知り合いの中国人に聞くと、「おそらく漢字は『皇后』ではないか」という答えだった。なるほど楊貴妃の故事もあるし、そうかもしれない。

また最近新たに「タイショー種」というのが開発されているそうだ。タイショーとはもちろん、日本語の「大将」である。ホンホエイ(皇后)といいジャカパット(皇帝)といいタイショー(大将)といい、リンチーの品種名は、クシャトリヤ(王族・武家カースト)っぽい名前が好まれるようだ。まさに、フルーツ界のクシャトリヤである。

メーチャン郡の広大なリンチー農園

 今回取材で訪れたのは、チェンラーイ県メーチャン郡、メーカム地区でリンチー栽培を営むウェーンさん。チェンラーイ県の品評会で金賞を受賞したこともある、県内を代表するリンチー農家だ。ウェーンさんは農園の2代目で、先代であるお父さんが自宅の広大な土地にリンチーの木を植え、息子のウェーンさんがそれらを受け継いだ。

農園内の木は、ほとんどが樹齢20年以上で、ウェーンさんの小さいころまたは生まれる前に植えられたものばかりだ。ウェーンさんいわく、一代限りの果樹園というのは、現実的でないばかりか、ムダが多いという。自分が木を植え、収穫がようやく安定しても、経営が軌道に乗り出したころには自分の働き盛りが終わってしまうからだ。

ウェーンさんの農園も、先代の仕事はもっぱら木の育成で、実質的な経営はウェーンさんの代になってからから始まった。そのため現在地区内でリンチー園を営んでいるのは、みな2代目3代目で、リンチーをゼロから始めたという人はいない。リンチー園は、何十年、何代にもわたって取り組む、気の長い仕事なのだ。

リンチーが食卓に並ぶまで

 農園の作業風景を、ざっと見てみよう。リンチーには、「高温多湿の夏」と「0~10℃程度の冬」という2つの生育条件がある。夏の暑さと冬の寒さの両方が必要で、厳冬すぎると生きられず暖冬だと花がつきにくい。非常にデリケートな作物だ。このため、タイ国内でも特に冬が寒い北タイの上部、チェンラーイ~パヤオ~チェンマイ県ファーン郡にかけてのエリアが、リンチー栽培には最適なのだ。

 リンチー農家の一年は、12月に始まる。12月、0~10℃の冬を経験した木が、花をつけ始める。リンチーには、前述のように多くの品種があるが、最高級品種のジャカパット種は、0℃に近ければ近いほど多くの花をつけるため、暖冬であれば収穫が下がる。一方最もポピュラーな品種であるホンホエイ種は、10℃前後の冬でも十分実をつけてくれる。つまり、品種ごとの価格は、どれだけ寒さを好む品種か、ということに比例している。

4月、花が実をつけ始める。すべての花に実が成るわけではないので、地元の養蜂家がリンチー園を回って受粉を促進するためにハチを放すのだが、それでも実をつけない花もある。このようにリンチーは、冬の温度と受粉という2つの不確定要素があり、これらが生産量~流通量を大きく左右する。

5月、激しい蒸し暑さの中で収穫がスタートする。収穫の際はハシゴ職人が高給で雇われる。竹の両側に足場を打ちつけただけの簡単なハシゴで、手際よく枝を切り、地面に落としていくさまは、まさに職人芸だ。女性は、実のついた枝を適当な長さにそろえ、輪ゴムでしばって梱包し、通い箱に詰めていく。
 
リンチーは放っておけば高さ10mにもなり、収穫作業が大変になるので、高さは常時3m以下にキープしなければならない。垂直に高くなりすぎた幹は切ってしまうのだが、すると切り株の近くにある枝が、今度は自分が幹になろうと太く長く生長し、こうして数本の幹が全方向にバランスよく広がっていく。

すべての枝が、幹になる能力を備えているのだ。「部分が全体の縮図」という、数学のフルクタル図形を思わせる、まさに生命の神秘である。

リンチーは、鮮度が命!

リンチーの最大の泣き所は、「傷みやすいこと」である。店頭に並べられたリンチーは、2日しか持たない。カゴに入れて新聞紙でフタをしても、保存は1週間が限度である。このため、回転の悪い地方の商店などではリンチーは敬遠される傾向にある。

かの玄宗皇帝の妻である楊貴妃がリンチーをこよなく愛し、人馬を酷使して華南から都の長安まで八日八晩をかけて運ばせたという故事が残っているが、2日で傷むリンチーを人馬で運ぶのは、きっと命がけだったに違いない。
 
農家はまず、農園で取れたリンチーを「マオ」と呼ばれる買取所に持っていく。マオとはタイ語で「請負う」という意味だが、つまり「小売りを請負う(=仲買する)」ということだ。農家はよほど磐石なマーケットを持っていない限り、賞味期限の2日以内に自力で完売するのは至難の業だ。

そのため多くの農家では、取れた実をすぐにマオ(買取所)へ持って行き、とりあえず時価で買い取ってもらう。

マオ(買取所)の家では、すでに各地からポーカー(商店主・ブローカー)が待機しており、その日に取れた新鮮なリンチーを今か今かと待っている。マオのもとに集められたリンチーは、こうしてポーカーに100kg単位で売り渡され、ポーカーは都市部の市場でこれを売る。

このためリンチーは、収穫後わずか数時間で、地方からは姿を消してしまう。
以上の流通を図示すると、
 チャーオスォン(農家)→マオ(買付所)
→ポーカー(商店主)→消費者 となる。

 消費者にとっては、これらの仲介料が気になるところではあるが、賞味期限が2日という事情を考えると、マオの存在は不可欠であると言える。リンチーが他のフルーツに比べて割高なのは、このためだ。

農家の直売屋台もあるが、マオに売り払ったあとのわずかな残りを売る程度で、数は少ない。しかも国道沿いに住む者に限られる。一方、ウェーンさんのような大農園であれば、ポーカーは必要量をすべて直接ウェーンさんから買い付けることができる。ウェーンさんも、マオへ運ぶ必要がない。こうして大農園と零細農園は、更に差がついてしまう。

 インターネットの普及で、農家が直接消費者へ郵送するケースも現れ始めている。果物産業においては、鮮度はまさに、楊貴妃の時代からの永遠のテーマである。郵送での鮮度と品質が向上すれば、今後は零細農家にも挽回のチャンスは十分にあるだろう。

おいしいリンチーの見分け方

リンチーには品定めのためのポイントが数多くある。大きさ、皮の色、ムラ、皮のハリ、そして枝のつき具合などだ。皮の色は鮮やかなピンク色よりも、少し褪せた赤色で、皮の表面にあるうろこ状のトゲが硬く、うろこの目が多いものが良品とされている。

また、皮の色のムラをなくすために、収穫前にはホー(紙で実を包む)という工程がある。暑季の強い日差しを遮ることで、皮の色と実の甘さが均等になる。この包みには、以前は新聞紙が使われていたが、雨季になると雨水で紙が溶けてしまうので、近年では撥水性のある油紙が採用されている。しかしこれがまた生産にかかる経費を上げてしまう、ということで、現在この油紙は農業局からリンチー農家に対して無償で配布されている。

数あるチェック項目の中でも、枝のつき具合は特に重要で、これは「鮮度」に直結する。枝は、いわば最後のエネルギー補給路であるため、枝から切り離された実は1日も持たない。枝が弱く、実の付け根が黒くなっているものは、枝がすでに疲弊していることを示す。枝が丈夫で付け根が白いものほど、枝からのエネルギー供給が高く、鮮度が高い。リンチーの量り売りの値段には枝の重量も含まれているが、鮮度を求めるなら、枝も必要経費なのである。

これらのほかにもう一つ、「種の小ささ」というポイントがある。果実に対して種が大きすぎると、可食部分がほとんどなくなってしまう。しかも、これは外からは見えないため、種の大きさを外観から見極めることが、「目利き」の上では重要となる。職人が見るのは、リンチーの「ライ(肩)」と呼ばれる部分だ。リンチーの実を人体になぞらえ、枝の付け根の周りの果肉を「肩」と呼んでいる。この肩が盛り上がっているものほど、種が小さく可食部分が多い確率が高い(100%ではない)。

以上、様々な視点からリンチーを見てきたが、リンチーの流通期間は極めて短い。例年7月にはほとんど完売してしまう。「今年のリンチーを食べそこねた!」という人、来年はぜひ、5月ごろからリンチーの動きをチェックしておこう!