【アカ族の食生活】タイ北部・山岳地帯ならではの夏の旬の食材

「タイの夏の食材」と聞いて、皆さんは何を思い浮かべますか?

 マンゴー、スイカ、パイナップル、…などなど、

多くの人にとって一番ポピュラーなのは、やはり、フルーツ王国としてのタイのイメージではないでしょうか。

 しかしタイは、フルーツだけでなく、野菜もじつに豊富です。
 
 夏野菜の定番であるナスビだけでも、市場へ行けば様々な種類のナスビが売られています。

 また、もう1つ忘れてはならないのが、虫食です。

夏になると、田舎ではアリの卵の収穫が始まり、セミの唐揚げなどが食卓に並びます。

これらの昆虫たちも、タイではメジャーな食材ばかりです!

今回は、そんなアカ族村で食べられている、旬の夏の食材を、ご紹介していきます。

(以下は、2016年発行の『ちゃ~お』に掲載された文章とを、転載したものです)

夏野菜の定番、ナス

 夏の食材の定番といえば、タイの山地でもやっぱりナスビである。タイ語で「マクア・〜」と言えば、おおむねナス科の植物であることを表している。有名な「マクア・テート(トマト)」も、ナス科だ。タイには、様々なナス科の植物が、食用として流通している。それでは、まずはじめに、ナス科の植物から見ていこう。

食材1、マクア・ヤーオ

アカ語:マフージュェ

 日本で一般にナスビと呼ばれているものだ。夏になると、タイの山地でも大量のナスビが出回る。焼いてよし、漬けてよし、炒めてよしの万能選手である。

「タム・マクア」と言えば、ナスビを使ったタイ料理の定番メニューだ。ナスビの質感がふんだんに生かされていて、肉を一切使っていないのに、とても食べ応えがある。

食材2、マクア・ポワン

アカ語:シハラゴ

 スズメナス。グリーンピースのような、小さくて苦味のあるナス。これまた、タイ料理の定番食材である。グリーンカレーの具に使われることが多い。日本のウェブサイトなどでは「スズメナス」と書いているところもあるが、日本ではタイ食材店ぐらいでしか流通していないので、日本名よりもタイ語でそのまま「マクア・ポワン」と覚えておくといいだろう。スズメナスには独特の苦味があり、グリーンカレーの具にするほか、炒め物のちょっとしたアクセントとしても活躍する。

●【マクア・ポヮン】の記事はこちら

食材3、マクア・ジェー

アカ語:マフーチトゥ

 丸くてコリッとした食感のナス。これも、山で暮らすアカ族が大好きな夏の食材だ。アカ族では、これをスープの具にしたりすることもあるが、生で食べることが多い。我が家でも、庭に植えている。生食が可能なので、サッともいで食べられるのは便利である。その時は、ナムブリック(唐辛子のつけダレ)につけて食べる。ちなみに、タイ語の標準語では「マクアクーン」というらしいが、私はこの単語を使ったことがない。北タイではもっぱら「マクアジェー」なので、こっちの名前で紹介しておく。

まだこんなにあった、夏の旬の食材

 タイは、フルーツ王国として知られているが、野菜もかなり豊富である。野菜&フルーツ王国と呼んだ方が、実情をよく表していると思う。特に、冬が明けて、暑さが本格的になり始める3月ごろには、新鮮な夏の食材が、豊富に出回る。それでは、ナス科の植物以外にも、山でよく食べられている珍しい食材をご紹介していこう。

食材4:マラ・メーオ

アカ語:ガラマノ

 日本では「はやと瓜」と呼ばれている。

ウリの仲間。冬瓜とカボチャを足して2で割ったような味。

カボチャの仲間で、カボチャ同様、つるも食用になる。食感は、もちっとしている。味はタンパクで、カボチャと冬瓜を足して2で割ったような味がする。炒め物にしたり、スープの具にしたりする。

食材5:野イチゴ

アカ語:レーオゥ

こちらは、野生のマルベリーである。私達が子供の頃、学校帰りに摘んで食べた、「野イチゴ」とよく似ている。アカ族のおばちゃんたちは、山で取れたマルベリーを、行商で売りに来る。なんと、1袋5バーツ。

子どもたちも大好きだ。そのへんの体に悪そうなスナック菓子を食べるより、こっちのほうがよっぽどいい。

食材6:そら豆

アカ語:アベェヨフー

 その他、夏の山で注目すべき食材は、「そら豆」である。これは、私もタイで今回初めて見つけたもので、これまで全く意識したことはなかった。食べてみると、日本のそら豆とほぼ同じ味で、食べやすい。そら豆は、他の豆類よりも大ぶりで質感があるため、そら豆でおかずを作ると、少量の具材でもぐっとボリュームが出る。この日は、村一番の料理職人が、旬のそら豆で野菜炒めを作ってくれた。

タイに滞在中に、ぜひ虫を食べてみよう

今回ご紹介している「厳選食材10選」のラスト4品目は、何を隠そう、「虫」である。日本では、その外見から敬遠されることが多いが、山では貴重なタンパク源である。

食材7:アリの卵

アカ語:ジョフロフヤウ

 免疫のない人にとっては、かなりグロデスクに映るかもしれないが、タイでは「3月の珍味といえば、アリの卵!」と言われるぐらい、夏の人気食材である。

北タイ夏の珍味、「アリの卵」

アリの卵自体には味はないが、タンパク質などの栄養価が高く、プチプチした食感が好まれている。この食感を楽しむために、スープに入れたり、卵焼きの具にしたりする。写真は、塩と唐辛子を加えて、「ナム・プリック」にしたものである。

食材8:セミ

アカ語:アブスビェ
 夏の風物詩と言えば、けたたましく響くセミの鳴き声。これは、タイでも同じである。タイの場合、セミの唐揚げは、夏のおかずの定番だ。そのため山の子供たちにとっては、「セミ取り」は、遊びと実益を兼ねた、重要な仕事となっている。捕獲したセミは、羽根と足をちぎり、胴体だけを唐揚げにして食べる。この唐揚げが、これまた格別なのである。見た目さえ気にしなければ、スナック感覚でサクサク食べられる。

 惜しむらくは、この原稿の締め切りが、セミの羽化に間に合わなかったことである。おそらく、この号が出る頃には、山ではセミたちが一斉に羽化しているはずであるが、私がこれを書いている3月下旬現在、セミはまだ飛んでいなかった。セミ料理については、また次の機会に見送りたいと思う。

●【セミを使った料理】はこちら

食材9:蝶のさなぎ

アカ語:アールゥヨティ

 先述の、アリは卵、セミは成虫を食べるのが一般的であるが、蝶は、さなぎが食用になる。さなぎは、動かない分、収穫はラクであるが、食べるタイミングが重要である。

早すぎてもまだ十分に成長していないし、待ちすぎると、羽根が生えて飛んでいってしまう。今回私が市場で買ったさなぎたちも、数匹が羽化直前でピクピクと動いていた。

●【蝶のサナギの唐揚げ】はこちら

食材10、ハチミツ

アカ語:ビャウー

 天然の蜂蜜は、夏の山のイチオシ食材だ。山村では、暇を持て余した男たちが、アルバイトがてら、山深くに入っていって、蜂の巣を枝ごと取ってくる。大きさにもよるが、1つ50バーツで売ってくれる。ちなみに、この日我が家へ蜂の巣を持ってきてくれた男性は万年金欠気味で、蜂の巣をうちへ持ってきて換金し、そのお金を生活費に充てている。
蜂の巣1つで、大体100~200mlほどの蜂蜜が取れる。

 以前『ちゃ〜お』で、「タイの市場で売られている蜂蜜には偽物が多い」ということを紹介した記事があったが、山ではその心配は無い。なぜなら山では、蜂蜜は瓶詰めではなく、枝についた蜂の巣ごと売買されるからである。これなら、偽装表示のやりようがない。ちなみに巣の中には、まだ羽化していない蜂の子たちも暮らしているが、それももちろん食べる。

虫食が地球を救う

 以上、夏のアカ族の十の厳選食材を、駆け足でご紹介してきた。ナスももちろんおいしいが、個人的に一番気に入っているのは、虫食である。食用の虫は、①飼育設備や土地が不要、②エサやりが不要、③タンパク質やミネラルなど栄養素が豊富、などなど、じつに効率的で、魅力に満ちた食材なのである。「食糧危機を救う最も有望な食文化」という声もあるくらいだ。

 もしも、まだタイで虫を食べたことがない人は、ぜひ、虫食先進国(?)のタイにいる間に、虫食にトライしてみてはいかがだろうか。

(北タイ情報誌『ちゃ~お』より転載)

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