タイが最も暑くなる4月は、セミの季節です。
蝉は、唐揚げにすると、とてもおいしい、ということを、ご存知でしたか? カリッとしていて食べやすく、ポテトチップスのような食感です。
【蝉】
タイ語:ジャカジャン
アカ語:アブスビェ
セミの旬は?
セミと言えば、夏の虫の代表選手ですよね。
タイでは、夏は4月です。
日本では夏にあたる8月ごろは、タイでは雨季にあたります。
夏は、セミを捕まえて食べよう
そのため、タイでは、年間を通じて気温が最も高くなる、4月ごろがセミの旬で、
3月末ごろになると、成虫になったセミたちが、一斉に羽化を始めます。
「ミーンミーン」という蝉の鳴き声が、山村にけたたましく鳴り響く頃になると、
村の子供たちは、朝早くから林に出かけ、セミ取りに興じます。
セミ取りの目的は、もちろん食べるためです。
そのため、アカ族の子供たちにとっては、セミ取りも楽しむこともできて、
なおかつ、「家族のためにおかずを探してきてあげられる」という、まさに一石二鳥の遊びです。
アカ族式、セミのとり方
セミを取るときは、虫取り網ではなく、昔の日本で言う、「トリモチ」を使います。
接着剤のような、粘着する液体を買ってきて、長い竹竿の先端に塗ります。
そして、子供たちは、この棒を林へ持っていって、木の上に止まっているセミを見つけると、
「えいっ」と体を伸ばして、竹竿の先端をセミに当て、セミを捕まえるわけです。
上手な子だと、ほんの1時間ぐらいで、100匹ぐらいのセミを取ることができます。
100匹もあれば、5人家族の1日分のおかずになりますから、時間あたりの労働生産量、ということで考えると、かなり効率の良い仕事、ということになります。
セミ取りは、趣味と実益を兼ねた、素晴らしい遊びなんです!
セミはどうやって食べるの?
捕獲してきた蝉は、羽根をむしって、下ごしらえをしておき、食べるときには、唐揚げにします。
この羽尾をむしるのは、おばあちゃんたちの仕事です。
子供がセミを捕まえて、おばあちゃんが羽をむしり、お母さんが料理をする。なんとも、微笑ましい光景だと思いませんか?
唐揚げ以外の調理法
セミの最も一般的な食べ方は、唐揚げです。
セミの唐揚げは、低地のタイ人も大好きですから、毎年3月から4月にかけて、ローカルの市場を除くと、セミの唐揚げが売っていることがあります。
現地の人は、この唐揚げは、そのまま食べたり、ナムプリック(唐辛子のつけだれ)につけて食べたりします。
「ナムプリック」というのはタイ語で、
食材と塩、唐辛子などを臼でついてペースト状にして、「つけダレ」のようにしたものの総称です。
そして、タイ人も、アカ族も、基本的には、このナムプリックが大好きです。
ナムプリックさえ作っておけば、茹で野菜や、今回のセミなど、何か食材が手に入ったときに、
ナムプリックをつけてすぐに手軽に食べることができる、という、タイに古くから伝わる、食文化の知恵です。
セミで作ったナムプリック?
また、セミには、唐揚げ以外にも、を1つ、調理方法があります。
それは、セミそのものを、「ナムプリック」にしてしまうことです。
この辺は、日本人の感覚だと、若干ややこしいのですが、「ナムプリック」というのは、あくまでも総称で、
「ナムプリック」という名前の特定の料理があるわけではありません。
ですので、木の実でもなんでも、塩と唐辛子と一緒に混ぜ合わせれば、何でも「ナムプリック」になりますから、
大豆で作れば、大豆のナムプリック、セミで作れば、セミのナムプリック、というわけです。
そこで、アカ族は、セミをメインおかずにする以外にも、そのものを、ナムプリックにしてしまおう、というわけです。
セミの唐揚げを、これまた、セミで作ったつけダレににつけて食べる。
まさに夏の旬が満載の、セミづくしメニューです!
セミの唐揚げって、どんな味?
食感は、「カリッ」としていて、ポテトチップスのような感じ。
ですので、ケチャップやマヨネーズにも、とてもよく合いますよ!
ほかの虫料理と同様、特に何も言われなければ、「蝉の唐揚げ」だとは絶対に分かりません。
脂肪分はほとんどなくて、それでいて食べ応えがある、とってもヘルシーな食品です。
蝉の数が減ってきた?
しかし近年、タイでも急速に自然破壊が進んでいるため、セミの数は年々減ってきています。
セミが生息するための、背の高い樹木の数が、減っているためです。
20世紀の終わり頃までは、夏の日に子供たちがセミを取ってくれば、それで家族が2日ぐらいは得ることができたのですが、
今では、セミそのものがいないため、せっかく子供たちが時間をかけて捕まえてきてくれても、一食分のおかずにしかなりません。
自然破壊は、こういうところにも、悪影響を及ぼしているんです。
タイで樹木が減っている最大の理由は、自然の林を伐採して、商品作物を植えようとするためです。
基本的に、東南アジアの人たちというのは、私たちが想像もできないほど、現金に対する執着心があります。
つまり、「商品作物を植えて収穫すれば、換金できる!」という知恵を付けられてしまい、
本来の林のメリットなどを全て忘れて、商品作物に勤しんでしまうんです。
でも、結果として、建築用の木材もなくなり、セメントで家を建てなければならなくなります。
また、今回ご紹介しているセミも、十分なおかずにならないほど数が減っていますので、
結局、何かおかずになるものをお金にを出して買わなければいけなくなり、紙幣が手に入っても、それを貯めることはできません。
「商品作物」という概念に潜む矛盾が、ここにあります。