タイで少子化が進んでいる最大の原因は? (5)食の欧米化

タイにおける少子化のもう一つの原因として、「食文化の変化」が挙げられます。

ご存じの通り、タイは世界屈指の農業国で、

「米と野菜とフルーツはいくらでも手に入る」という国でした。

そのため、これまでは、豊富な食糧がタイ農村の人口増加を支えていたわけです。



タイ人にとって、「ご飯」はそれこそ「無尽蔵」なものです。

コメの生産量、輸出量はともに世界一です。

タイ人の家で食事をしたことのある人ならご存知かと思いますが、

タイ人はとにかく、客のお椀にご飯をたくさんつごうとします。

そして、お茶碗のご飯がなくなりそうになったら、必ずと言っていいほど、

「アオ・イーク・マイ?
(もっと要るか?)」

と聞いてきます。

これは、タイ人のDNAに刻み込まれた、もてなしの文化なのですが、

これはつまり、「米ならいくらでもある」という条件が前提になっています。

そして、この状態であれば、

家庭においては「食費」というものを考える必要がありません。

米と野菜とフルーツは無尽蔵にありますから、

家族が1人や2人増えたところで、食費にはほとんど変化がないのです。

山小屋で、皆で囲んで食べる料理はおいしい。

こうした食文化が、タイの大家族・農村社会を存続させてきた、と言えます。



しかし近年、タイ人の食文化も大きく様変わりしました。

タイ人も、セブンイレブンで惣菜パンを買い、

ショッピングセンターへ行ってケンタッキーフライドチキンを食べ、

宅配のピザを注文するようになりました。

しかし、これらの食事には、現金が必要です。

現金がなければ、食べることができません。

つまり、「食べれるか食べられないか」ということが、お金のあるなしで決まってしまう、ということです。



また、これだけではありません。

こうした西洋風の食事は、「1人分」の量が決まっています。

「8等分されたピザは、8人しか食べられない」

ということです。

9人目が来た時に、「おー、食え食え」とは言えないんです。

9人目の食事を、別途買わなくてはなりません。

パンやフライドチキンも同様です。

これらはみな、現金で買って、なおかつ、食べられる人数が決まっている食事です。

4人なら4人分、5人なら5人分、費用がかかります。

こうした食事は、タイ人の自宅の庭でいくらでもとれるコメや野菜とは、まるで性質が違うのです。



従来のタイは、「家族でコメ1トン」という風に、食費に関しては非常にアバウトでした。

「食べる人数」というものを、そもそも考える必要が無かったんです。

子供がいくら増えても食費のリスクはなく、子が育てば農作業の人手を増やせるわけですから、

家族にとって「出産」はメリットしかありません。

しかし、食文化が都市化・欧米化して、「1人いくら」という計算方法になってしまうと、人数の分だけ食費がかかってしまいます。

こうなると、必然的に、人口は抑えられてしまうわけです。



「だったら、フライドチキンなんて食わなきゃいいのに…」

って思いますよね。

実際のところ、

山菜や川魚や昆虫など、タイ農村の伝統的な食事のほうが、よっぽど合理的で、ヘルシーです。

しかし、フライドチキンやピザには「中毒性」がありますから、一度味を覚えてしまうと、なかなかやめることができません。

また、タイ人にとって、こうしたジャンクフードは、「豊かなアメリカ」の象徴ですから、

食べることそれ自体が、ステータスと自己満足と舶来信仰につながっている、という側面もあります。

つまり、

「少しでも金があれば、フライドチキンとピザとハンバーガーを食べずにはいられない」

というのが、現代タイ人の「習性」になっているのです。

そのため、親は、

「子供用のジャンクフードの経費」を、毎月用意しておかなくてはなりません。

極端な話、

「1日に500バーツぶんのジャンクフード」を食べる子が1人増えれば、費用は単純に倍になります。

こうなると、オイソレと子供を増やすことができなくなります。

こうして少子化が進み、しかも、ゴミも増えて、肥満と糖尿も増える…

という、なんとも恐ろしい悪循環になっています。



今回の内容をまとめると…

少子化の原因の1つに、「食費がかかるから」という点を挙げる人は多く、事実その通りです。

しかし、タイという国の状況を、もっとさかのぼって考えてみると…

「タイはそもそもコメが無尽蔵で、食費という概念がなかった国なのに、

西洋風の食文化が大量に輸入されたために、子供1人1人に食費がかかるようになってしまった」

と言えるわけです。

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