タイにおける少子化のもう一つの原因として、「食文化の変化」が挙げられます。
ご存じの通り、タイは世界屈指の農業国で、
「米と野菜とフルーツはいくらでも手に入る」という国でした。
そのため、これまでは、豊富な食糧がタイ農村の人口増加を支えていたわけです。
タイ人にとって、「ご飯」はそれこそ「無尽蔵」なものです。
コメの生産量、輸出量はともに世界一です。
タイ人の家で食事をしたことのある人ならご存知かと思いますが、
タイ人はとにかく、客のお椀にご飯をたくさんつごうとします。
そして、お茶碗のご飯がなくなりそうになったら、必ずと言っていいほど、
「アオ・イーク・マイ?
(もっと要るか?)」
と聞いてきます。
これは、タイ人のDNAに刻み込まれた、もてなしの文化なのですが、
これはつまり、「米ならいくらでもある」という条件が前提になっています。
そして、この状態であれば、
家庭においては「食費」というものを考える必要がありません。
米と野菜とフルーツは無尽蔵にありますから、
家族が1人や2人増えたところで、食費にはほとんど変化がないのです。
こうした食文化が、タイの大家族・農村社会を存続させてきた、と言えます。
しかし近年、タイ人の食文化も大きく様変わりしました。
タイ人も、セブンイレブンで惣菜パンを買い、
ショッピングセンターへ行ってケンタッキーフライドチキンを食べ、
宅配のピザを注文するようになりました。
しかし、これらの食事には、現金が必要です。
現金がなければ、食べることができません。
つまり、「食べれるか食べられないか」ということが、お金のあるなしで決まってしまう、ということです。
また、これだけではありません。
こうした西洋風の食事は、「1人分」の量が決まっています。
「8等分されたピザは、8人しか食べられない」
ということです。
9人目が来た時に、「おー、食え食え」とは言えないんです。
9人目の食事を、別途買わなくてはなりません。
パンやフライドチキンも同様です。
これらはみな、現金で買って、なおかつ、食べられる人数が決まっている食事です。
4人なら4人分、5人なら5人分、費用がかかります。
こうした食事は、タイ人の自宅の庭でいくらでもとれるコメや野菜とは、まるで性質が違うのです。
従来のタイは、「家族でコメ1トン」という風に、食費に関しては非常にアバウトでした。
「食べる人数」というものを、そもそも考える必要が無かったんです。
子供がいくら増えても食費のリスクはなく、子が育てば農作業の人手を増やせるわけですから、
家族にとって「出産」はメリットしかありません。
しかし、食文化が都市化・欧米化して、「1人いくら」という計算方法になってしまうと、人数の分だけ食費がかかってしまいます。
こうなると、必然的に、人口は抑えられてしまうわけです。
「だったら、フライドチキンなんて食わなきゃいいのに…」
って思いますよね。
実際のところ、
山菜や川魚や昆虫など、タイ農村の伝統的な食事のほうが、よっぽど合理的で、ヘルシーです。
しかし、フライドチキンやピザには「中毒性」がありますから、一度味を覚えてしまうと、なかなかやめることができません。
また、タイ人にとって、こうしたジャンクフードは、「豊かなアメリカ」の象徴ですから、
食べることそれ自体が、ステータスと自己満足と舶来信仰につながっている、という側面もあります。
つまり、
「少しでも金があれば、フライドチキンとピザとハンバーガーを食べずにはいられない」
というのが、現代タイ人の「習性」になっているのです。
そのため、親は、
「子供用のジャンクフードの経費」を、毎月用意しておかなくてはなりません。
極端な話、
「1日に500バーツぶんのジャンクフード」を食べる子が1人増えれば、費用は単純に倍になります。
こうなると、オイソレと子供を増やすことができなくなります。
こうして少子化が進み、しかも、ゴミも増えて、肥満と糖尿も増える…
という、なんとも恐ろしい悪循環になっています。
今回の内容をまとめると…
少子化の原因の1つに、「食費がかかるから」という点を挙げる人は多く、事実その通りです。
しかし、タイという国の状況を、もっとさかのぼって考えてみると…
西洋風の食文化が大量に輸入されたために、子供1人1人に食費がかかるようになってしまった」
と言えるわけです。