タイで少子化が進んでいる最大の原因は? (4)子供の高学歴化

前回、タイの少子化の原因の1つとして、

「女性の高学歴化」
についてお話ししました。

しかし、「高学歴化」というキーワードには、もう1つ、重大な要素があります。

それは、「子供の高学歴化」です。

近年のタイは、非常に「中流志向」が強く、

「子供を大学まで卒業させて当たり前」

という風潮があります。

社会でこういう風潮が一度でき上がってしまうと、

「いや、ウチの子は、高卒で構いません」

ということをなかなか言えなくなっていきます。

結果的に、タイでは猫も杓子も、農家の子も公務員の子も、同じように、大学を目指すようになるわけです。

中流志向については、こちらの記事にもまとめてあります。
 ↓↓
【タイの中流志向】



しかし、中には当然、大学なんてものに一切縁がないような子供もたくさんいるはずなのですが、

そんな子にさえ、親はお金をつぎ込んで、大学へ行かせようとします。

こうなると当然、教育費がかかります。

たとえ、親が爪に火を灯すような貧しい生活をしていても、

借金までして、子供を良い塾、良い学校に通わせ、何としてでも、大学まで行かせようとするんです。



これは言わば、子供が産まれた時点で、

親は「大学卒業までの学費の負債」を抱えさせられるようなものです。

薄型テレビ、iPhone、自家用車などのローンを抱えている状態で、

さらに子供の教育費の負債を抱える…

これでは、なけなしの生活をしている一般庶民にとっては、「子供を作ろう」なんて思えないわけです。



極端な話、

「大学まで出すことができないなら、子供は作らない」
「お金がある人だけが、子供を作ることができる」

という風潮すらあります。

これが、現代タイにおける、少子化の最大の原因の1つです。

タイの大学の卒業式では、見栄と虚勢のためだけに万単位の金が飛んでいく

では、お金があれば子供の数を増やすことができるのかというと、

「そうでもない」

というのが、現代タイの難しいところです。



例えば、

子供を大学まで行かせるための学費として、「100」のお金が必要だとします。

そして、「100」のお金を工面するアテがある人は、子供を作ります。

しかし、問題はその先。

金策がうまくいって、「200」のお金が工面できたとしたら…?

本来は、2人めの子供を作ろう、となるはずですよね。

しかし、「200」のお金のアテがあるタイ人は、2人めの子を作りません。

1人目の子に、「2倍」の教育費をかけます。

こうして、1人の子だけに投資が集中する現象が生まれます。

結果的に、庶民のお金が増えたからといって、子供の数は増えません。

そして、親から大量に投資された一人っ子が、さらにわがままで横暴になる…

という悪循環になっているわけです。



でも本当に、大学に行かせる必要なんて、あるんでしょうか?

しかも、タイのような、教育レベルの決して高くない国で。

もちろん、タイの名門のチュラ大、タマ大、マヒドン大とかなら超優秀な学生がたくさんいますが、

それ以外の「とりあえず大学生になってみた」的な学生の教育レベルには、目を覆いたくなるものがあります。

「教育費がかかる」という以前に、

「そもそも自分の子に教育費をかけることは適切なのか」
「我が子にはどのような進路が適切なのか」

ということを、親として、きちんと吟味しなくてはなりません。



昔はタイでも、ラーメン屋の子は、親のラーメン屋を手伝っていました。

そして、子が中学を出るころには、いっぱしのラーメン職人になっていますから、

そこから、自分で稼ぐことができていたんです。

また、子供が2人、3人と増えれば、その分、店の従業員として使うことができますから、

「家業」としてどんどん発展していくことができたわけです。

でも、現在は、親の店を手伝っている子供なんて、めったに見かけません。

塾で夜遅くに帰ってきて、客席に座り、親の仕事も手伝わずに、スマホをポチポチやっている…

夕方のタイの市場へ行くと、そんな子供ばっかりです。



でも、
本来であれば、

親がおいしいラーメンを作ってくれるからこそ、子は学校へ行かせてもらえているわけです。

なので、

「子が店を手伝う」
「子が客に感謝する」

こんなのは、人として当然のことです。

しかし現在は、親子の立場が完全に逆転して、

親は子のためだけに働いて疲れ果て、子は感謝もせず、手伝いもしない…

こんな状態で、「2人目の子を作ろう」なんて、思えませんよね。



実際のところ、私もよくタイ人から、

「お金がある人は、子供をたくさん作れて良いわねぇ~」

と言われます。

しかし、私はそのたびに、心の中で、

「えっ、君は、お金があったって、どうせ子を作る気なんてないんだろう?」

と、冷ややかに流しています。

うちのゲストハウスに来てくれた人は分かると思いますが、うちには本当に余分なお金なんてありません。

生活はいつもギリギリで、一般のタイ人の方が、よっぽどお金をたくさん使っているぐらいです。



なので、本質を言うと…

「お金があるかどうか」ということと、「子を持つかどうか」ということとは、本来は無関係

です。

特に、タイのような農業国なら、なおさらです。

農地と農作物さえあれば、子供なんていくらでも作れます。

タイはずっと、そのようにやってきたのですから。

しかし現代のタイは、あまりにも「紙幣の枚数」にばかり脳が集中してしまっているために、

「お金がないから子を作れない」

という発想しかできなくなっている、というわけです。



この現象を一言で言うと…

現代タイ人は、お金の使い方が分かっていないんです。

使い方も知らないのに、紙幣という「道具」だけをポンと渡されたようなものです。

そのため、

「お金は全て、子供にぜいたくをさせるためにつぎ込むもの」

という固定観念が出来上がってしまっています。

というよりも、そのように思わされているんです。

これこそまさしく、
「中流志向」というやつです。

結果、親は子の奴隷になり、

子供の学費を工面するためだけにその半生を捧げて疲弊し、少子化はさらに進行する…

というわけです。



こんなにもイビツな社会になるくらいなら…

「ラーメン屋の子はラーメン屋」
「農家の子は農業を手伝う」
「大学なんて、一部のエリートだけ」

という時代の方が、タイはよっぽど健全だったんじゃないの?と思うわけです。

⇒第5回へ進む