【アカ族の文字】なぜアカ語のアルファベットは普及しないのか②シャン語やカレン語との違い

前回は、『アカ族の文字』というテーマで、

「アカ族は、アカ語をABCのアルファベットで表記する方法を採用しているが、
実際はほとんど普及していない」

というお話をしました。

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これは、東南アジアの多くの人にとって、

「ABCというものが、そもそも身近な文字ではないこと」

が原因です。

こんなことになるなら、

ABCなんて使わないで、ミャンマーの、ミャンマー文字で、アカ語を表記していれば、もっと普及していたかもしれないのに…

と、つくづく感じます。

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私のこの意見には、ちゃんと根拠があります。

実際に、その方法で、うまくいっている民族が、いるからです。

たとえば、

ミャンマーの少数民族である、「シャン族」や「カレン族」などがそうです。

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現在、シャン族は、「シャン文字」というものを持っていますが、

これは、ミャンマーの、ミャンマー文字を、改造して、シャン語の発音に当てたものです。

では、それぞれの文字を見てみましょう。

これが、ミャンマー語

まず、↑この丸々っとした、視力検査のマークのような文字が、ミャンマー文字です。

次に、これを改造して作った、シャン文字はというと…

これが、シャン族のシャン語

ぱっと見、ほとんど同じように見えますよね。

これは、ミャンマー文字をベースにして、シャン文字を作ったからです。

シャン文字を知らないシャン族の人も、ミャンマーでの生活でミャンマー文字を普通に使っていますから、

初見でも、そこそこ読めるわけです。

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次に、カレン族のカレン文字を見てみましょう。

これが、カレン族のカレン語

これまた、ほとんど同じですよね。

これらはつまり、ミャンマー文字の「音」を使って、シャン語やカレン語の「音」に当てているわけです。

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たとえば、

前回の例としてお話しした「 လ 」という文字は、「ラ」と読みますが、

シャン語で「ラ」を書く時にも、
カレン語で「ラ」を書く時にも、

同じように「 လ 」を使って表記する、ということなんです。

彼らには、ミャンマー語の知識がすでにありますから、このほうがよっぽど「使いやすい」わけです。

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でも、この方法だと…

「ミャンマーに住んでいないシャン族は、わざわざ覚え直さないといけないから、やっぱり面倒なんじゃないの?」

って、思いますよね。

私も、最初はそう思っていました。

でも、

「一度普及した例」が出来上がると、それを習得するためのモチベーションは、格段に上がります。

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例えば、

ミャンマー国内のシャン族の間では、このシャン文字が、そこそこ普及していますから、

これをタイに持ち込んだ時、タイ在住のシャン族は、

「おお、こんな文字があるのか、じゃあ覚えてみよう」

と、考えます。

なぜなら、ミャンマー在住の「同胞」たちが、すでにこのシャン文字を使っているからです。

結果的に、タイ在住のシャン族の間でも、「ミャンマー文字を改造したシャン文字」は、普及していきます。

これがつまり、「一度普及した例があると、他でも普及しやすい」ということです。

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一方で、アカ族のアカ・アルファベットはと言うと…

「どこの文字でもありません」。

現在、オーストラリアのキリスト教系財団が普及活動をしているので、

あえて言えば、アカ・アルファベットは、「オーストラリアの文字」です。

でも、オーストラリア在住のアカ族がこれを使っているわけでもなく、

ただ単に、オーストラリア人が、勝手に教科書を作って教えようとしているだけで、

「まだ地球上のどこの国のアカ族にも普及していない文字」なのです。

そもそも、オーストラリア人とアカ族なんて、何の接点もありません。

寄付する側とされる側の関係でしかありません。

こんなの、「習おう」というモチベーションなんて、上がるはずがないですよね。

ミャンマー語の看板

今回登場した民族名が、ちょっとごちゃごちゃしていますので、まとめると…

シャン族⇒シャン語⇒シャン文字(元はミャンマー文字)

カレン族⇒カレン語⇒カレン文字(元はミャンマー文字)

アカ族⇒アカ語⇒アカ文字はない(英語から借用)

ってことになります。

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以上のような事情から、私は、

「ABCなんて持ち込まず、ミャンマー文字で、アカ語を表記していれば良かったのに…」

と、感じているわけです。

実際に、シャン族やカレン族は、それでうまくいっているのですから。

…でも、

そうは言っても、現状すでに、「アカ・アルファベット」というものが出来上がってしまっていますから、

「使えねえ!」なんて言っていても、話は進展しません。

やはり、このアカ・アルファベットを、何とかして、普及させる方法を、考えていかなくてはなりません。

次回は、そのお話をしていこうと思います。

(つづく)

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