前回は、『アカ族の文字』というテーマで、
「アカ族は、アカ語をABCのアルファベットで表記する方法を採用しているが、
実際はほとんど普及していない」
というお話をしました。
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これは、東南アジアの多くの人にとって、
「ABCというものが、そもそも身近な文字ではないこと」
が原因です。
こんなことになるなら、
と、つくづく感じます。
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私のこの意見には、ちゃんと根拠があります。
実際に、その方法で、うまくいっている民族が、いるからです。
たとえば、
ミャンマーの少数民族である、「シャン族」や「カレン族」などがそうです。
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現在、シャン族は、「シャン文字」というものを持っていますが、
これは、ミャンマーの、ミャンマー文字を、改造して、シャン語の発音に当てたものです。
では、それぞれの文字を見てみましょう。
まず、↑この丸々っとした、視力検査のマークのような文字が、ミャンマー文字です。
次に、これを改造して作った、シャン文字はというと…
ぱっと見、ほとんど同じように見えますよね。
これは、ミャンマー文字をベースにして、シャン文字を作ったからです。
シャン文字を知らないシャン族の人も、ミャンマーでの生活でミャンマー文字を普通に使っていますから、
初見でも、そこそこ読めるわけです。
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次に、カレン族のカレン文字を見てみましょう。
これまた、ほとんど同じですよね。
これらはつまり、ミャンマー文字の「音」を使って、シャン語やカレン語の「音」に当てているわけです。
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たとえば、
前回の例としてお話しした「 လ 」という文字は、「ラ」と読みますが、
シャン語で「ラ」を書く時にも、
カレン語で「ラ」を書く時にも、
同じように「 လ 」を使って表記する、ということなんです。
彼らには、ミャンマー語の知識がすでにありますから、このほうがよっぽど「使いやすい」わけです。
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でも、この方法だと…
って、思いますよね。
私も、最初はそう思っていました。
でも、
「一度普及した例」が出来上がると、それを習得するためのモチベーションは、格段に上がります。
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例えば、
ミャンマー国内のシャン族の間では、このシャン文字が、そこそこ普及していますから、
これをタイに持ち込んだ時、タイ在住のシャン族は、
「おお、こんな文字があるのか、じゃあ覚えてみよう」
と、考えます。
なぜなら、ミャンマー在住の「同胞」たちが、すでにこのシャン文字を使っているからです。
結果的に、タイ在住のシャン族の間でも、「ミャンマー文字を改造したシャン文字」は、普及していきます。
これがつまり、「一度普及した例があると、他でも普及しやすい」ということです。
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一方で、アカ族のアカ・アルファベットはと言うと…
「どこの文字でもありません」。
現在、オーストラリアのキリスト教系財団が普及活動をしているので、
あえて言えば、アカ・アルファベットは、「オーストラリアの文字」です。
でも、オーストラリア在住のアカ族がこれを使っているわけでもなく、
ただ単に、オーストラリア人が、勝手に教科書を作って教えようとしているだけで、
「まだ地球上のどこの国のアカ族にも普及していない文字」なのです。
そもそも、オーストラリア人とアカ族なんて、何の接点もありません。
寄付する側とされる側の関係でしかありません。
こんなの、「習おう」というモチベーションなんて、上がるはずがないですよね。
今回登場した民族名が、ちょっとごちゃごちゃしていますので、まとめると…
シャン族⇒シャン語⇒シャン文字(元はミャンマー文字)
カレン族⇒カレン語⇒カレン文字(元はミャンマー文字)
アカ族⇒アカ語⇒アカ文字はない(英語から借用)
ってことになります。
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以上のような事情から、私は、
と、感じているわけです。
実際に、シャン族やカレン族は、それでうまくいっているのですから。
…でも、
そうは言っても、現状すでに、「アカ・アルファベット」というものが出来上がってしまっていますから、
「使えねえ!」なんて言っていても、話は進展しません。
やはり、このアカ・アルファベットを、何とかして、普及させる方法を、考えていかなくてはなりません。
次回は、そのお話をしていこうと思います。
(つづく)