現在タイでは、深刻な少子化が進んでいます。
女性一人当たりが生む子供の数は年々低下を続け、現在は平均2人を切っています。
そのため、タイでも、都市部などでは、「子供をほとんど見ない」なんていうのはザラにあります。
しかし、なぜこんなにも、タイで少子化が進んでしまったのでしょうか。
少子化の理由については、複合的な要素が絡み合っていて、「これ」ということを限定することはできないのですが、
今回は、その1つである「タイにおける帝王切開の流行」ということについて、ご紹介していきます。
帝王切開が流行っている?
タイは現在、帝王切開が非常に盛んです。
…と、このように聞くと、違和感を感じる人も多いのではないでしょうか。
なぜなら、日本の通常の感覚だと、帝王切開はあくまでも、
「自然分娩ができない場合の非常手段」という認識だからです。
おそらくあなたの周囲でも、
「帝王切開で産んだ」という人は少数派のはずです。
しかし、タイはそうではありません。
タイではなんと、帝王切開をする、あるいは望む人が、圧倒的に「多数派」なんです。
「良いこと」だと考える
タイに限らず、一般に発展途上国では…
お金を出して医療サービスを受けることを、「良いこと」だと考える傾向があります。
そのため、「薬信仰が極めて強い」というのも発展途上国の特徴で、
・お金がなくて薬や医療サービスを受けられないのは、悪いこと
という、非常に極端で、二元的な発想をします。
しかし、本来であれば…
「薬や医療サービスを受ける必要がないほど健康」
という状態が最も理想なのですが、発展途上国では往々にして、
「医療サービスは、お金をつぎ込んで積極的に受けるもの」
と考える傾向があります。
帝王切開「してもらう」という発想
ここで、今回のテーマ「帝王切開」です。
タイにおいては、帝王切開は、非常手段ではなく…
「お金を用意して、帝王切開をやってもらう」
「お金があれば、帝王切開をしてもらえる」
という認識があります。
こうして、帝王切開は、
タイでどんどん普及していったわけです。
お金がかかる
しかし、ここで重要なポイントが1つあります。
それは…
「帝王切開が流行しているとはいえ、無料でできるわけではない」ということです。
タイは、公立病院であれば帝王切開の手術費用は無料なのですが、
「私立病院の方がサービスが良い」
と考え、わざわざ高いお金をかけて、私立病院で帝王切開をしてもらうケースも多いんです。
特にタイ人は、ホテル感覚で病院に「泊まりたい」という発想をしますから、
帝王切開の際も、お金をつぎこんで、少しでも快適な環境を求める傾向があります。
また、手術費用だけではありません。
約1週間の入院と、産婦の入院のために、家族が病院で泊まり込みをしますから、そのための食費や滞在費などもかかります。
これだけで、ざっと数万バーツの出費です。
そこまで裕福ではない階層の人であっても、借金をしてまで、帝王切開手術を受けようとします。
「帝王切開が必要でないケースにもかかわらず」…です。
自然分娩が少数派になった
我が家ではもちろん、5人の子はすべて自然分娩ですが、
うちの奥さんが妊娠をしていた頃も、会うタイ人はみな口をそろえて、
「自然分娩するの?(=帝王切開しないの?)」
という質問をしてきました。
この質問の意図としては…
「お金を払えば帝王切開してもらえるのに、なんでわざわざ自然分娩するの? ケチなの?」
という、非常に屈曲した意味合いが、込められています。
お金がないと出産できない?
こうした事情から、現在タイでは、
「出産には、帝王切開の費用がかかる」という認識が一般化しています。
こうなると、必然的に…
「所有している紙幣の枚数で、子供を産める人数が決まってしまう」
ってことになります。
以前は、現金なんてなくても、5人でも6人でも子供を産めたにも関わらず…です。
つまり、「帝王切開に払うお金がないから、妊娠・出産できない」という発想です。
こうなると、少子化はより一層進行し、歯止めがかからなくなっていきます。
何度もできない
また、帝王切開には、回数にも限度があります。
一生のうちに何度も帝王切開をしてしまうと、母体への負担が大きくなりますから、帝王切開で出産する場合は、必然的に、
「一生のうちに子供産む数」も限定されます。
こうしてタイは、「帝王切開の回数制限」という、予期せぬところで、人口調節が行われてしまっているわけです。
逆に言えば、発展途上国の政府が人口調節をしようと思ったならば…
「帝王切開は良いこと」というプロパガンダさえ打ち出せば、人民は、自ら望んで人口を抑制する…ってことになります。
タイが今まさにその状態です。
改善方法はあるのか
「帝王切開の流行」
という、この異常な現象を食い止めるには…
「帝王切開よりも、自然分娩できるなら、自然分娩したほうがよい」
という考えが、社会に浸透する必要があります。
しかし、一度流行したものを覆すのは、容易ではありません。
車が普及した後で、「車は良くない」なんて言っても、誰も手放さないのと同じことです。
特に、医療サービスの場合は、
「必要ないだなんて…非情だわ!患者がかわいそうじゃないの?」
という、感情論を持ち込みやすいですから、たとえ「必要ない」と考える人がいても、
「なかなか口に出して言えない」という現実もあります。
こうして、帝王切開はタイでますます普及し、それに伴って、人口も減少していく…というわけです。
まとめ
「タイで帝王切開が流行」というのは、ちょっと意外な感じではないでしょうか。
でも、事実です。
ためしに、タイで、30代以下(1980年以後生まれ)の女性に、帝王切開について聞いてみてください。
おそらく、ほとんどの人は…
「できれば帝王切開したい」
「友人も帝王切開で産んだ」
…等と答えるはずです。
もちろん私は、帝王切開そのもの否定しているわけではありません。
医師が必要だと判断した際には、行われるべきでしょう。
しかし、「必要でもないのに、帝王切開を望む女性がタイで増えている」という点は、もっと問題視されても良いと思います。
このことが、タイで少子化が進んでいる要因の一つではないか、と思うからです。