「お中元」という言葉、
日本では、「お盆の前後にお世話になった人に贈り物をする習慣」という意味で使われますよね。
でも、この言葉を日本に伝えた本家の中国では、
「中元」という言葉は、そのまま「お盆」という意味なんです。
ですので、現代でも中国本土やシンガポール、タイの中華系住民などは、
「お盆の先祖供養の行事」として、「中元」を祝います。
中国語では、「中元節(ツォン・ユェン・ジエ)と言います。
今年、2017年9月の満月は9月6日でしたが、
「中元節」は、その3日ぐらい前から行われていました。
私たちが住んでいる村は、中華系の住民も多く、そのため村では、中国のお祭りが、年間を通じて、普通に行われています。
今回は、2017年に行われた、タイ北部の中国人村の「中元節」について、お話をしていきたいと思います。
北タイ中国人村の「中元節」
この時期、国道から村へと続く道を走っていると、ふと、「なんだか煙たいなあ」という違和感を感じます。
「ゴミでも燃やしているんだろう」と思っていたのですが、見ていると…
各家庭が、どこも同じように、家の軒先にドラム缶を出して、何やら紙で作られたものを、燃やしていました。
村全体に充満していた煙の正体は、この「ドラム缶の火」だったんです。
ドラム缶に近づいてみると、その中では、
おもちゃの紙幣や、
金紙で作られた紙細工、
紙製の服や靴などが燃やされていました。
これらは、「先祖供養」の目的で行われています。
旧暦7月の満月の日に、紙製のものを燃やして、天国にいるご先祖に使ってもらう…
というのが、北タイの中華系住民の間で行われている、「中元節」です。
中国のこうしたお祭りは、「旧暦カレンダー」つまり、次の満ち欠けで日程が決められるので、毎年日付は違います。
今年の旧暦7月の満月が、カレンダー上では9月の上旬だった…ということです。
「紙細工を燃やして先祖に使ってもらう」
…なかなか、興味深い風習ですよね。
早速、中国人の村人に、話を伺ってみました。
中元節では何をするの?
まず、冒頭にお話ししたように、中国の「中元節」は、日本の「お盆」に相当しますから、基本は、「先祖供養」です。
ただし現在、中国人は世界中に住んでいて、
その国の文化や習慣もありますので、儀式の意味や形式は、おそらく同じではありません。
シンガポールの中元節や、サンフランシスコの中元節は、多分、それぞれ違うだろうと思います。
私は、タイ以外の国をよく知らないので分かりませんが、今回の記事は、とりあえず…
「タイ北部の中国人村では、中元節をこのようにしている」
という感じでお読みください。
旧暦7月の満月の日、
中国人の家庭では、朝から、ご先祖に食べてもらうための料理を作って、神棚のようなものにお備えします。
その後は、家族で食事をして、ご先祖へのお祈りや黙祷などを捧げ、夕方、日がかげってきたころ…
「紙細工を燃やす」という儀式を始めます。
このとき、ドラム缶の中で燃やされる物としては、次のようなものがあります。
- 黄金
- 紙幣
- 服
- 帽子
- 靴
- 装飾品
…などです。
もちろん、すべて紙製です。
大昔は、もしかしたら、「本物」を燃やしていたかもしれませんが、
現代でそれをやってしまうと、「中元節」のたびに、家庭が破産してしまいます。
それに、革靴など、燃えないものを燃やしてしまうと、環境にも優しくないですよね。
(中国本土では、燃やしてそうですが…)
ですので、先祖に捧げるこれらの気持ちは、すべて紙製。
燃やして灰にして、天国にいるご先祖に使ってもらおう…というわけです。
面白いのは、
この時期市場へ行くと、「中元節」で燃やす専用の紙製のものが、売られていることです。
こうなると、「中元節」で一番儲かるのは、「おもちゃ屋さん」ってことになりますね。
服や靴、帽子など、様々なものが売られていますが、特に人気が高いのは、やはり…
「黄金」と「紙幣」
この2つです。
ドラム缶の中にも、目一杯の「紙製の黄金」が詰まっていて、その中に、ちらほらと紙製の服や靴がある…という感じです。
いかにも、「お金が大好き」という中国人らしい発想です。
また、この紙幣は、「中元節で燃やす専用」ですから、それなりの装飾が施してあります。
紙幣には、仏様や聖人などのイラストが描いてあり、
特に面白いのは、紙幣の「但し書き」です。
紙幣の但し書きには、このように書いてありました。
「この紙幣は、天国と地獄だけで使うことができます」
地獄でも使えるお金…っていう発想が、いかにも中国人らしいですよね。
でも、これって、要は、
「俺の先祖は地獄にいるかもしれない。でも、このお金を使ってくれ」
ってことですから、おそらく日本では「ありえない」発想です。
日本人の場合、死者のことを「ホトケ」と呼びますから、
基本的に日本では、亡くなった人は皆すべて、尊敬すべき対象です。
しかし中国人の場合は、「先祖は当然地獄にもいるだろう」という前提で、
なおかつ、地獄の先祖にこの紙幣を使ってもらおう、というのですから、
日本人の感覚からすると、かなり「不自然」な印象を受けます。
「地獄の沙汰も金次第」とは、
まさしくこのことです。
(というか、この格言自体、中国人の生き方にピッタリです)
ともあれ、タイ華僑の「中元節」は、こんな感じで、
「あの世でご先祖に使ってもらう紙製のお金や衣類などを燃やして、ご先祖を供養する」
というスタイルです。
なかなか、面白いですよね。
もしも、私たちの村へのお越しの際は…
ぜひ、「春節」や「中元節」など、こうした中国人のお祭りも、見学してみてくださいね!