山村の路傍に、所狭しと並べられた、ホウキの穂先
これは、冬のアカ族村の風物詩です。
タイ伝統の手作りホウキ
このホウキは、タイ語で「マーイ・ゴヮート・ドークヤー・ゴン」と言い、
タイ全土で広く使用されている、タイの伝統的なスタイルのホウキです。
「ドークヤー・ゴン」とは、タイの山地に自生している植物で、収穫は毎年1月。
手作りホウキの材料となるこの草は、ちょうど、コメの収穫が落ち着いた、冬の時期に収穫が始まります。
「ドークヤー・ゴン」の草は、アカ語では「ヤピョアド」と呼ばれ、これは「ホウキの草」という意味です。
アカ族の間でも、冬はこの草でホウキを作るという伝統が、受け継がれてきました。
タイのホウキが海外で人気
以前までは、各家庭で使用する分だけを作っていたのですが、ここ数年、タイのホウキがビジネスとして急成長。
タイ産の手作りホウキは、マレーシア、シンガポール、日本などの諸外国へも輸出されるようになりました。
たまに日本でも、タイ産のホウキが、ホームセンターとかに売っていたりしますよね。
あれは、主にタイの農村部で、内職で作られたものなんです。
そのため、各地のホウキ工場では生産が追いつかなくなり、アカ族の村にも、内職の下請けが出されるようになりました。
職人は意外と高収入
毎年この時期になると、ホウキの穂先の買い付け業者がトラックに乗って村を訪れ、村人が作った穂先を買い取ります。
買取価格は年々上昇傾向にあり、今年は1kg35バーツでした。
私達外国人には「1kg35」という数字が、ピンとこないかもしれませんが、これは、山ではかなりの高給です。
穂先作りは、熟練者で1日に10kg以上、女性でも7~8kgは作りますから、ホウキづくりの日当は、
「1日300~350バーツ」ってことになります。
つまり、家でホウキを作り続ければ、都市部の日当300バーツに匹敵する工賃を得ることができるわけです。
仕事は有限
そのため現在では割の良い内職のアルバイトとして、アカ族の間でホウキ作りが広く行なわれるようになりました。
しかし、穂先の材料となる「ドークヤー・ゴン」の草が収穫できるのは、年1回のこの時期だけです。
そのため、年間を通じてコンスタントに発注がある、ってわけではないんです。
なおかつ、収量は有限ですから、期間限定、数量限定のアルバイト、ということになります。
ホウキ作りの季節は、ちょうど中国旧正月のシーズンとかぶることが多いのですが、伝統的なアカ族の家庭では、中国の旧正月はあんまり関係がありません。
アカ族の村では、旧正月フィーバーなどどこ吹く風で、周辺の中国系やタイ人たちが旧正月で狂喜乱舞している姿を横目に、せっせと内職に励んでいます。
アカ族のことわざに、「やることがないなら、ホウキを作れ」というのがあります。
ホウキづくりのシーズンは、ちょうどコメの収穫が落ち着いて、農家がやることがなくなった頃ですから、
そんなとき、遊びにうつつを抜かすのではなく、
「ちょっとでも、家のためになることをしなさい」ということを、教えた格言です。
タイの祭りというのは、どこも同じような売り物ばかりで、祭りへ行っても、結局肉団子と焼きそばを食べただけ、ということが往々にしてあります。
熟練のホウキ職人にしてみれば、わざわざそんなつまらない消費をするぐらいなら、家でホウキを作っている方が、よっぽど充実しているのかもしれません。
怠惰と消費欲求を断ち切ることができれば、満足はおのずと得られます。
しかし今の社会はこの逆をしていますよね。
「怠惰と消費欲求」を追い求め続けることで、よりいっそう、平安と満足からは遠ざかる…という、悪循環です。