このオレンジの車をご存知でしょうか。
これは、タイにある民間の宅急便会社の車で、「ケリー・エクスプレス」といいます。
タイの宅急便会社の中では比較的大手ではあるものの、
もともとタイ人はそんなに宅急便を使いませんから、「誰もが知っている」というほどの知名度ではありません。
しかし、少数民族たちが住んでいる、うちに山岳部においては、
このケリーエクスプレスの車は、間違いなく、「誰もが知っている」超メジャーな宅急便会社です。
ケリーエクスプレスの車は、車体をオレンジ色に塗っており、その外観から、通称「ロット・スィーソム(オレンジトラック)」と呼ばれています。
そして、うちのアカ族村では、このオレンジトラックを「見ない日はない」というほど、毎日のようにやってくるんです。
日によっては、1日に2往復も3往復もするほどの超ヘビーローテーションです。
では、このケリーエクスプレス、通称「オレンジトラック」は、なぜこれほどまでに、山岳部へやってくるのでしょうか。
これには様々な要素がありますが、最大の原因は、「山岳部にスーパーマーケットがないこと」です。
平地のタイ人たちは、ここ20年ほどの間に、
「休日はビックCやロータスなどの大型ショッピングセンターで買い物をする」
というライフスタイルが身についています。
そのため、タイでもネットの通信販売が普及したとはいえ、ショッピングセンターで買い物をする層も依然多いわけです。
しかし、山岳部には、そもそもショッピングセンターがありません。
そのため、山地に住む人が、市場に売っていない海外製品やパソコン、周辺機器などを買おうと思ったら、
山から往復何時間もかけて、町のショッピングセンターまで行かねばなりませんでした。
しかし、この状況を覆したのが、「Lazada」に代表される、ネット通販です。
「Lazada」は、インターネットのショッピングサイトで、「東南アジア版アマゾン」のようなものです。
最近は、スマホの普及により、山の少数民族の間でも「Lazada」が広く知られるようになりました。
そして、近年は少数民族の人たちも比較的容易に出稼ぎに行けるようになり、山の家庭でも、家族からの仕送りなどで経済的の余裕のある家が増えてきました。
しかし、お金があっても、山にはお金の使い道がありません。
そこへ登場したのが、インターネットのショッピングサイトです。
最初は山の人たちも抵抗があったものの、「ボタン1つで買い物ができる」という手軽さから、山岳地でも一気に普及しました。
また、「着払いOK」というのも、LAZADAが普及した理由の1つです。
ネット決済に抵抗がある人でも、着払いなら、気軽に注文することができます。
こうして、金銭的に余裕のある山岳民族は、山から何時間もかけてショッピングセンターまで行かずとも、
スマホ1つあれば、自由に買い物ができるようになりました。
こうした事情から、
LAZADAの商品の宅配を扱っているケリーエクスプレスの配送車は、連日のようにうちの山岳地を訪れ、山の人たちに商品を送り届けている、
というわけです。
なんだか、意外な感じですよね。
ひょっとしたら、山の人たちは、外国人に援助してもらったお金を、ネット通販で使っている……なんてことも十分ありえます。
いまやタイの山岳民族は、自分たちでネット通販を楽しめるほど、豊かになってきています。
もうこれ以上、何を支援する必要があるのか、とつくづく感じます。
実際のところ、海外の財団の中には、いまだに
「学校で使う靴や学用品のレシートを持ってきたら、現金を支給してあげる」
なんていう古臭い援助の方法をとっているところもあります。
でも、山には元々お店が少なく、お店まで行く車もない、という人がほとんどです。
だったらいっそのこと、海外の慈善財団も、
「靴やカバン、学生服は、ネット通販で買いなさい。2千バーツまで、財団の口座から負担してあげる」
というシステムにした方が、お互いラクですよね。
でも、財団がそれをやらないのは、きっと、「援助をしてあげている」という形にこだわりたいからだと思います。
でも、一昔前までは、「生活がままならないほど貧しい」というのが、タイの山岳民族に対する固定観念だったのですが、
今では彼らも、スマホを駆使して、自由にネット通販を楽しんでいます。
家庭によっては、「地元の山から出たことがないが、ネット通販は頻繁に利用している」という人もいます。
こうなると、週末のたびにショッピングセンターに出かけている平地のタイ人よりも、
山の人たちのほうが、近未来的な生活をしていると言えるかもしれません。