タイ北部、チェンマイ・チェンライ・パヤオなどの県では、外国人による慈善財団が、数多く活動しています。
こうした財団は、様々な活動理念を掲げていますが、
主な活動内容としては、おおむね「少数民族の児童の就学支援」を謳ったものが多いです。
就学支援を継続できない財団が増えている
これらの「就学支援」の活動は、一言でまとめると
「学校へ行く機会に恵まれない、山村の少数民族の民族の子供たちのために、寮や学費などを支援して、学校に通わせてあげよう」
というものです。
と、ここまで聞くと、「なかなか素晴らしい活動じゃないか」という気がするのですが、実態は、そう簡単ではありません。
2,010年ごろを境に、これらの慈善財団の多くは、活動を継続できなくなるという危機に直面しています。
今回は、財団の就学支援活動が、なぜ、うまくいかなくなってきたのか、ということについて、ご紹介していきます。
激しいインフレ
最大の理由は、物価の上昇、「インフレ」です。現在タイでは、凄まじいほどのインフレが進んでおり、
過去20年間で、物価は約2倍になっています。
具体的には…
20年前、お米は1キロ60円程度だったのが、現在は120円
豚肉が1キロ200円程度だったのが、現在は400円、という具合です。
物価に差があることが前提条件
そもそも、発展途上国への支援活動というのは、基本的に…
「先進国の国民にとっては微々たるお金でも、そのお金を発展途上国に持っていけば、多くの人間が救われる」
という考え方で、成り立っています。
現に、21世紀の初めごろ、まだ日本の景気が良かった頃は、多くの日本人がタイの少数民族の子供たちの里親となっていました。
そして、そのお金で少数民族の子供たちのための学生寮ができたり、都市部の学校へ通わせたり、という健全な寮経営が続けられていました。
先進国は不景気、途上国はインフレ
しかし現在、こうした先進国と途上国との経済バランスが、崩れつつあります。
それが、冒頭からご紹介している、「途上国のインフレ」、そして「先進国における貧富の差の拡大」です。
これは、「物価の差」という、彼らの慈善活動の前提条件そのものが、危機に瀕していることを意味します。
簡単に言うと、タイの物価が2倍に跳ね上がったとき、先進国からの支援額が従来と同額だと、
事実上、「支援が半減する」、「支援が足りない」という状況になってしまったんです。
活動の継続はますます困難になる
具体的には、例えば…
「年間6万円で、少数民族の児童の里親になれる」
という広告を出している慈善財団があったとします。
この6万円という額、20年前であれば、山村の6ヶ月分の世帯収入に相当しました。
しかし現在、6万円という額は、
山村でも1ヶ月から2ヶ月ほどで使い切ってしまう
というくらい、タイの物価が上がってしまった、ということなんです。
これでは、里親からの支援額が従来と同額のままだと、寮の支援ができないということになりますよね。
一方で、日本をはじめとする先進諸国で、貧富の差が拡大し続けることにより、
6万円という大金を、見も知らぬ児童のためにポンと出せる中間層は、今後ますます減少の一途をたどっていきます。
そのため現在、多くの慈善財団が、「里親一人当たりの負担額を上げるか」それとも、「活動を縮小するか」という二者択一を迫られているんです。
まとめ
いかがでしたか。
今回は、現在タイ北部を中心に、少数民族の児童の就学支援を行なっている慈善財団が、軒並み存亡の危機に瀕している、という実情について、ご紹介してきました。
最大の原因は、
「激しいインフレにより、タイ国内の学生寮の運営費が、里親の支援額を上回ってしまった。」
「先進国の貧富の差の拡大により、里親支援が可能な中間層が減少し、新しい里親を探すことも困難になった。」
ということです。
それに、タイの物価が上がったということは、タイで働く賃金も上昇している、ということですから、児童の親たちの現金収入も、上がっています。
山村に住んでいるからと言って、必ずしも貧しいわけではない、という状況が、生まれつつあります。
こうなると、次は当然、
「里親への負担を増してまで、就学支援を続ける必要は、はたしてあるのか」
という点が浮上してきます。
そこで次回は、
「就学支援の必要性そのものが薄れてきた」
というテーマについて、お話をしていきたいと思います。
それではまた。