この20年ほどで、アカ族の村にも電化製品やコンクリの家が増え、すっかり様変わりしました。
なかでも、私が村で最も変化したと感じることの1つは、子供の誕生日パーティーが、家庭で普通に行われるようになったことです。
昔はアカ族に誕生日がなかった
今から約20年ほど前まで、アカ族には、「誕生日」という概念はありませんでした。
かつての日本と同じで、生まれた時が1歳、その後、お正月が来るためにとする年をとっていく、いわゆる「数え年」の習慣です。
日本からこんなにも遠く離れた少数民族が、かつての日本と同じ習慣を持っていた、というのは、なんだかとても不思議ですよね。
そのため、アカ族の中でも、1,970年代ごろまでに生まれた人は、「自分の誕生日をそもそも知らない」という人が大勢いました。
タイの山では1月1日が誕生日の人が多い理由
そのため、彼らのIDカードを見ると、誕生日はことごとく1月1日になっています。
これは、IDカードの取得の際に、「彼らが誕生日を知らなかった」という証左でもあります。
もちろん、中には本当に1月1日に生まれた人もいるかもしれませんが、ほとんどは、「誕生日なんて知らないし、とりあえず1月1日にしておこうっと♪」というノリです。
ところがその後、少数民族へのタイ国籍のIDカードの普及が進められ、少数民族の間でも、「どうやら誕生日というものがあるらしい」という考えが一般的になってきました。
タイ族へのあこがれがある
また、タイの少数民族に特有の感情として、「タイ族がやっていることは、近代的で、良いこと」という、なかば妄信的なあこがれのような感情があります。
これは、ラオス、カンボジアなどの周辺諸国も同様です。
タイはすっかり、「周辺の発展途上国の先輩」という立ち位置を獲得したんです。
そのため、タイに住むアカ族の人達も、
「タイ族や西洋人たちがやっているように、誕生日のお祝いをしたい!」
という感情が、芽生えてくるわけです。
しかし、前述の通り、1,970年代以前生まれの大人は、自分の誕生日を知りません。
また、「誕生日を知らない=前近代的」というような、恥じる気持ちもどこかにあると思います。
こうなると、「せめて子供は…」という感情が生まれるのは、当然のことです。
こうして、「たとえ大人が、自分の誕生日を知らなくても、せめて、子供の誕生日は、人並みに祝ってあげたい」という気持ちが、アカ族の人たちの間で、芽生えるようになりました。
これは、じつに興味深い現象です。
誕生日を祝う習慣が無かった人たちにとって、祝う習慣は、「近代的に映る」ということなんです。
アカ族の間で「誕生日」が普及した理由
もう少し、このテーマを踏み込んで考えてみましょう。
アカ族の村でも、子供の誕生日が祝われるようになったのには、このほかにも、いくつか理由が考えられます。
そのうちの1つは、出産のスタイルです。
出産スタイルの変化
出産スタイルの変化も、誕生日の概念が普及した理由の1つだと考えられます。
かつてアカ族は、自宅で子を出産するのが当たり前でしたが、今ではほぼ100パーセント、病院で出産となりました。
病院で産む場合は、母子手帳と出産証明書がセットについてくるため、子供は自動的に「誕生日」というものを持って生まれてくることになります。
少子化とインフレ
その他、少子化や所得の増加も、「子供の誕生日を祝うこと」と無関係ではないでしょう。
山に住む少数民族の間でも、少子化が進んでいること。
また、タイの国全体で流通する紙幣の量が増え、1人の子供にかけるお金の量が増えたこと。
そしてもう1つは、YouTube動画などで、居ながらにして都市部や外国の生活を見ることができるようになったことなどです。
こうして、山で暮らしているアカ族の間でも、「どうやら、誕生日は家族で祝うものらしい」ということを、知識として知るようになりました。
これらの要因から、現在では、私が住むアカ族村のどこの家庭でも、「誕生日パーティー」というものが行われています。
子供たちは誕生日パーティーが大好き!
特に、うちの村は、子供の数が多いため、ほぼ毎週、どこかの家で誕生パーティー行われている、という状態です。
村の誕生日パーティーでは、定番のメニューが2つあります。
それは、「カオソーイ・ナムンギァオ(ピリ辛スープの米麺)」と、町のパン屋が作っている「バタークリーム」を使用した、ケーキ(のようなもの)です。
「カオソーイ・ナムンギァオとケーキが食べられる!」これは、娯楽の少ない村の子供にとっては、最も楽しいイベントです。
そして子供たちは、輪になって、「Happy Birthday」の歌を歌います。
ケーキを切るときは、なんと、子供たちが行列を作って、大人がケーキを切り終わるのを、今か今かと目を輝かせて待ち構えています。
そして、人数で等分したケーキが、子供たちにを配られます。
しかし、そんなに大きなケーキではありませんから、1人分のケーキの厚みは、わずか2センチほどです。
それでも、子供たちにとってケーキは、
「誰かの誕生日のときにだけ食べられるもの」
という、特別な位置づけであるため、
たとえ厚さが1センチであっても、皆で仲良くお誕生ケーキを食べるのは、
本当に楽しい、幸せなひとときなんです。
なんとも、微笑ましい光景だと思いませんか?…と、こういう事情ですので、うちのアカ族村へお越しの際は、ぜひ、ホールケーキを1つご持参くださいませ♪
私がこれまで見てきた限り、文房具屋おもちゃなどよりも、ケーキは、村の子供たちが確実に、一番喜ぶお土産ですよ!