「陸稲栽培体験ツアー」と題し、前回の記事から、2回に分けて、
北タイ山岳部伝統の、陸稲栽培について、ご紹介しています。
今回は、後編です。
山小屋での炊事作業は楽しい
お昼休憩では、担当の奥さんたちが、枯れ木で囲炉裏に火を起こし、持参した水を鍋に貼って、取れたての山菜スープを作ります。
こういうときの手際の良さは、「さすが山岳民族の人たちだなぁ」と、いつも感心します。
囲炉裏以外に全く何もない小屋で、パパッと料理を作っていく彼らの姿を見ていて思うのは、
「山小屋も、普段の住居も、実はあんまり違わないんじゃないの?」
ということです。
蚊帳と塩とライターがあれば生きていける
うちの村も、ガスコンロを買ったのは、ほんのここ1~2年のことで、電気も、数年前までありませんでした。
電気がなければ、テレビや電話はもちろん、冷蔵庫も使うことができません。
こうなると必然的に、
「その日食べる食材は、その日に調達して、その日に調理する」
という、食のサイクルになります。
今、私の目の前で行なわれている、山小屋での炊事作業がまさにそういう感じです。
アカ族の年配の方がよく口にする、
「蚊帳と塩とライターさえあればどこでも生きていける」
という逞しさには、つくづく感心させられます。
シンプルな料理が結局一番おいしい
他の家族も人たちも農作業を切り上げて、山小屋に集まってきました。
子供と大人を合わせると、20人近いメンバーです。
ラープ・ディップ(生の挽肉料理)や、トム・パッガーッ(小松菜のスープ)など、
タイ料理でもおなじみのメニューが、続々振る舞われました。
山小屋で食べる料理はいずれも絶品でしたが、私が個人的に気に入っているのは、「ナムプリック(唐辛子のつけだれ)」です。
塩と唐辛子、ニンニクなどを混ぜ合わせただけの、いたってシンプルなものなのですが、アカ族の人たちは、これを日常的にメインのおかずとして食べています。
私が昔、村に来たばかりの頃は、「ええっ、おかずこれだけ?」と面食らったものですが、
不思議なもので、慣れてくると、「ナムプリックをゆで野菜につけて食べる」というのが一番スタンダードかつシンプルで、
「結局のところ一番これがおいしい」と最近は思えるようになってきました。
また、子を持つ父親としてはやはり、
中学生の長男が山菜を摘んできてくれたり、娘が薪を拾ってきてくれる姿が誇らしく、微笑ましくもありました。
竹の筒は、やかんの代わり
山小屋の炊事作業のなかで、私がもう一つ感心したのは、竹の筒でお茶を沸かすことです。
やかんなどを持参すると、荷物が重くなってしまいますから、竹の筒をやかんの代わりにするわけです。
やり方は、いたって簡単。竹の筒に水を入れて熱するだけ。
この竹筒を、囲炉裏の砂の中に挿し込んで、しばらくして筒の中の水が沸騰します。
「竹が焼けてしまわないの?」と、心配になってしまうのですが、
意外なことに、筒の底のほうが少し焦げるだけで竹筒そのものは一切焼けず、中の水はしっかり沸騰する、
という、素晴らしい生活の知恵です。
やかんは竹で、コップも竹、実にエコロジーです。
「パイナップル貧乏」が増えている件
また、近くの畑でパイナップルを植えている人がいて、おすそ分けをしてもらいました。
チェンラーイ県産のパイナップルが、タイ全土や中国などでシェアを拡大していて、
最近では、アカ族が家庭で作ったパイナップルを、輸入業者が買い取りに来ます。
こうした状況から、山の人たちはこぞってパイナップルを植えるようになったのですが、
「皆が作ると値段が下がる」というのは経済のセオリーです。
今や地元では、「1つ10バーツでも売れない」という状況になっています。
栽培のための投資分も回収できなくなり、自分で消費するにも限界があるので、こうなるとまさに「パイナップル貧乏」です。
「商品作物では稼げない」というのは、すでにパラゴムノキや、飼料用スイートコーンなどで経験済みのはずなのですが、
「少しでも現金を得たい」と考える彼らは、流行っている農作物の噂を聞きつけては、こぞって栽培を始め、いくばくかの現金収入を得ているわけです。
まあ、私としては、タダ同然のパイナップルが毎年食べられることは嬉しいのですが、
やはり各家庭で、最低限自分の家の米だけは作れる状態にしておくことが必須である、とつくづく感じます。
【パイナップル酵素の作り方】についても、こちらの記事でご紹介しています。
食事の後は、山小屋で昼寝
食事の後は、お昼寝タイムです。それぞれが、小屋の中で適当なスペースを見つけて横になり、30分ほど仮眠をとります。
その前の食事は、楽しくおしゃべりをしながら、1時間以上食べていたので、食事+昼寝で、実質2時間以上休憩をしていたことになります。
また、移動のための時間は、往復で3時間ほどですから、「移動と休憩の方が作業時間よりも長い」ということになります。
でも、家族でこんなにも気楽に楽しんで、十分なお米を作れるなら、それが何よりだと思います。
昼寝の後、残った作業を再開し、家族5世帯による1日の作業で、畑の大体半分ぐらいが終わりました。
この作業をあともう1セットやれば、100メートル四方ほどの畑の植え付けが終了します。
日がかげってきた頃に作業を終え、帰路に着きます。もちろん飼い犬は、帰り道でも私たちにしっかり付いてきてくれました。
大量の食糧と水がカラになって、荷物が軽くなっているので、帰り道はずいぶんラクです。
ちなみに今回の作業の間、幸運にも終日快晴でした。
今年の雨季は、「深夜にどかっと降って昼間は晴れる」という、農家にとっては非常にありがたい雨の降り方をしてくれているので、とても助かります。
まとめ
最後に、今回の植付けデータをまとめておきます。
●植付け量:約60kg
●見込み収量:約900kg
●作付面積:100m四方
●作業者数:5夫婦10名
●作業日数:2日(草引き除く)
ちなみに、とれたお米は、5夫婦で山分けするのではなく、全てうちの取り分です。
その代わりに、別の夫婦の植え付けのときには、うちも手伝いに行きます。
これは、アジアで古くから行われている、農作業の互助システムです。
今回は、4夫婦が手伝いに来てくれましたから、私たちは、あと4回、別の畑に手伝いに行かなければならないことになります。
最近のタイの都市部では、こうした互助システムではなく、「日当」を現金で支給する人も増えてきてはいます。
しかし、「現金収入がないのに日当だけが発生する」というのが、いかに理不尽であるか、というのは、少し考えればわかることです。
そのため、山では現在も、「助け合いで、労働を提供し合う」という昔ながらのスタイルが続いています。
陸稲栽培体験ツアーは、こんな感じで、本当にピクニックみたいで、とても楽しいものでした!