【陸稲】北タイ山岳民族の主食、陸稲とは?~アジア山岳部伝統の陸稲栽培体験ツアー【前編】

今回は、地元アカ族村の陸稲(りくとう・おかぼ)の植え付けに参加した時の話です。

昨年、『アカ族の陸稲』というタイトルで、『ちゃ~お』の巻頭特集を執筆させていただいたのですが、その後私は、村人たちの中で、

「陸稲にやたら興味のある日本人」という位置づけになってしまい、今年の初めぐらいから、陸稲の栽培をたびたび誘われるようになりました。

農業初心者は陸稲のほうが向いている

私も農業初心者で、「いつか自分で米を作ってみたいなぁ」という思いはあったものの、

ゼロから田んぼを作るというのは、やはりどうしてもハードルが高いため、「やるなら陸稲」という思いがありました。

陸稲は、畑に直接植えるので、畦(あぜ)などを作る必要がないからです。

それに、山の水源は限られているため、平地の土地を持っていない我が家にとっては、水田という選択肢が元々なく、必然的に陸稲一択になってしまうわけです。

今年は、周囲からの後押しもあって、陸稲の種子を農家から買うことができ、めでたく、畑に植えに行くことになりました。

前置きが長くなりましたが、今回は、そんな日本人とアカ族の家族による、陸稲の植え付け体験記です。

60キロの種子を5家族で植える

今回植えるのは、約60kgほどの陸稲の種子です。

大体100メートル四方ほどの畑で、ちょうど60kgを植え切るぐらいの感覚です。

なので、大体13メートル四方もあれば、種子1kgを植えることができる計算になります。

これを書いている時点でまだ収穫していないので、はっきりとした数字は分かりませんが、

60キロの種子は、大体900キロ位になるそうです。種子に対しておよそ15倍の収穫率です。

900kgもあれば、1日2kgとしても、1家族が丸々1年食べることができます。

畑仕事はピクニック?

植え付けの日は、2017年6月3日。

当日協力してくれる5家族と相談し、山奥の畑に陸稲の植え付けに行くスケジュールが決定しました。

しかしこれは、6月3日に作業がスタートする、という意味ではありません。

陸稲の植え付けで、最も重要な作業は、じつは、植え付けそのものではなく、「草引き」です。

土に直接植えるため、雑草が生え放題の状態だと、陸稲を植え付けることがきません。

そのため、我が家では、植え付けの1ヶ月前、5月の中旬ぐらいから、時間を見つけては、家族で畑の草引きをしていました。

そしていよいよ、植え付けの日、当日。

この日、女性たちは、早朝からお弁当作りで大忙し。

そして子供たちも、久々の家族総出のイベントに、わくわくしています。

そのため、これから農作業に行く、というよりも、

「家族でピクニックに行く」

というような感覚で、子供達のテンションは、朝から上がりっぱなしでした。

渓流が飲めない?

畑へ持っていく荷物は、ほとんどがお弁当と飲用水です。

川の水を沸かして飲むこともできるのですが、最近は、公衆道徳をわきまえないアカ族の人も増えていて、

皆の共有の山なのに平気で農薬や除草剤をまいたりします。

こうなると、土壌の農薬が渓流にも流れ出てしまい、「せっかくのキレイな渓流の水が飲めない」ということになってしまうんです。

農薬を撒くことで得られるのは、換金作物による、ほんのちょっとの現金収入です。

子供が1台携帯電話を買い替えたら、そんなお金はすぐになくなってしまいます。

そんなものよりも、渓流の水の方がよっぽど大事だと、私は十数kgの飲料水を担ぎながら、つくづく感じさせられました。

畑には、片道1時間半ほどかけて、山道を延々歩きます。

荷物が多いのと、舗装のないぬかるんだ山道を進んでいるのとで、実際の直線距離よりも、はるかに遠く感じます。

でも、「歩くのが大変」などと軟弱なことを言っているのは、私ぐらいでした。

山に住んでいるアカ族の人たちは、大人も子供も毎日日常的に歩いていますから、徒歩1時間半なんて、彼らにとってはまさしく朝飯前なんです。

それに、畑へ向かう途中の山道には、渓流など多くの遊びポイントがあります。

子供たちはその都度、水遊びをしたり魚を捕まえたりしながら、畑までの道のりを、まるでピクニックのように、楽しんでいる様子でした。

1時間半の移動を経て、私たちはようやく、山奥の畑に到着しました。

いよいよ植え付けスタート!

私たちが到着したころ、畑ではすでに、手伝いに来てくれた別の家族が、作業をスタートしていました。

植え付けの作業は、夫婦で2人1組になって行ないます。

簡単に言うと、男が穴を掘って、女がそこへ陸稲の種を投入する、という流れです。

土に穴を開けるときは、棒の先端にスコップを取り付けたような道具を使います。

これを、力を込めて「ぐさっ」と地面に突き刺し、土に穴を開けるわけです。

植付け作業は、2人1組で行なう。

そこへ、パートナーの女性が、陸稲の種子を一掴み、約10粒ほどを投げ入れます。

作業としては、これだけ。いたってシンプルです。

こんな山の頂上で、「水はどうするの?」という点が気になるところですが、基本は雨水だけで十分なのだそうです。

このへんも、山岳地に陸稲が向いている理由の1つだと言えます。

大人たちが作業をしている間、子供は、飽きもせずに、野山を元気に駆け回っています。

畑には犬も連れて行く

また、家族総出で畑仕事をするときは、基本的に、飼い犬も畑まで連れていきます。

これには、「家に置いておくと、泥棒に食べられてしまうから」という、ウソのような笑えない事情があるためです。

そのため今回の畑仕事には、愛犬の「ハナちゃん」も、連れていきました。

もちろん、リードなんてつけません。

愛犬は、私の足の歩く方向に、忠実について来てくれて、私が歩き疲れて休んでいる時などは、愛犬もその場でしゃがんで待っていてくれます。

そして、大人たちが農作業をしている間も、どこへも行かずに、ちゃんと畑の横でお昼寝をして、待っててくれるのです。

私は、こうした経験は初めてだったので、「愛犬とともに山にいる」、この光景がとても新鮮で、

「犬は、こんなにも飼い主にしっかり付いてくるものなのか」と、つくづく感心しました。

首輪無しで、ちゃんと畑まで付いてきてくれた。

南極探検隊が、南極に犬を連れていく理由が、何となく分かったような気がしました。

山暮らしの必須スキルとは

私が、山暮らしで必須のスキルだと想っているのは、手鼻(てばな)です。

手鼻とは、指で片方の鼻の穴を塞いで、もう片方の穴から「ふんっ」と鼻水を地面に叩きつける、鼻のかみ方のことです。

今回の畑仕事の間も、鼻水はティッシュや袖などでいちいち拭かず、ただ「ふんっ」と捨てるだけ。

何も汚さず、ゴミも出ず、じつに合理的な方法です。

お蔭様で私は、ここ10年以上ティッシュというものを買ったことがありません。。

いよいよメインイベント、お昼休憩!

2時間ぐらい作業をしたころ、炊事係の女性がおもむろに立ち上がり、持参した食材や調理道具を持って、山小屋へ向かいました。

この山小屋は、畑仕事の休憩用として、どこの畑にも必ず設置されています。

山小屋は、年に数回しか使わないはずなんですが、とても丈夫に作られていて、

今回私たちが入った山小屋も、「まるで竹の芸術品」と思えるほど、とても美しく、頑丈にできていました。

山小屋のなかには囲炉裏もあり、そこで料理をします。

そのためお弁当は、家で作って持っていくのではなく、あくまでも下ごしらえだけ。

「現地で調理をして、現地で食べる」

というスタイルです。これがまた、言葉では言い表せないくらい、楽しいんです。

料理は、子供達もお手伝いをします。男の子は山菜摘み、女の子と幼児は、枯れ木拾いに出かけます。

定番は、パッ・グゥーッ(ゼンマイのような山菜)

川沿いを歩いていれば、特に探そうとしなくても、大量に収穫することができます。

今年幼稚園に通っている私の娘とそのお友達も、言われたとおり枯れ木を集めてきてくれました。

そしていよいよ、本日のメインイベントである、山小屋での炊事作業がスタートします。

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